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A Painted House (TV) ペインテッド・ハウス

アメリカ映画 (2003)

ローガン・ラーマン(Logan Lerman)の初主演作。TV映画だが、安手の劇場用映画よりは余程しっかりと作られている。時代は1952年の9-10月。場所はアメリカのディープサウスの中でも最もディープだと言われるアーカンソー・デルタ(同州のミシシッピ川右岸)の綿作農家。そこの長男夫婦の一人息子、10歳のルークが映画の語り部であり、主人公でもある。映画は、農家の家長(祖父)とその妻、長男夫婦とルークの一家5人を中心に、綿摘みの季節労働にきたhillbilly(南部山岳地帯の田舎者)の1家6人と、メキシコからの出稼ぎ労働者7人が加わり、①綿摘み風景の紹介が紹介される。その後、②hillbillyの中の暴れ者が引き起こす暴力沙汰、③hillbillyの17歳の女性に対するルークの思慕、④その女性とメキシコ人との恋、⑤それに対する兄(暴れ者)の強い怒り、⑥悪天候による綿の収穫の中断と中止、⑦映画の題名にもなっている家の壁へのペンキ塗り、という様々な要素がルークを中心として1つにつながっていく。決して子供映画ではなく、1930年代を描いた『怒りの葡萄』の戦後版とも言える社会性のあるドラマになっている。その中にあって主人公であるルークは常に映像の中心にあり、クローズアップされる回数も最多で、見事な演技だけでなく個性的な魅力も十分に堪能できる。なお、この映画は、NHKのBS放送でハイビジョン放映されたが、日本版のDVDは発売されていない。

毎年恒例の綿摘みのシーズン(9月初旬)となり、家長であるルークの祖父は、2組の季節労働者を雇う。1組は、州北端の山岳地帯から来た一家で、ルークの家より立派な家に住んでいるのに金儲けのために一家6人で来ている。暴力沙汰を起こすような長兄のハンクと、ルークが慕う一人娘のタリー、頭も体も弱いトロットと、多様な人間がいる。一方のメキシコ人は7人で、中にカウボーイと呼ばれている不満分子がいる。最初の衝突は、暑さでダウンしたトロットの看病に残ったルークと、作業を途中でサボって戻って来たハンクの間で起こった。勝手にルークの家に入り込み、家の壁にペンキすら塗ってことを見下すように笑うハンク。それは、ルークにとってショックだった。そのハンクは、町に出た時、地元のワルと喧嘩になり、1人を角材で殴り殺してしまうが、100%の証拠がないので逮捕は免れる。休日にメキシコ人チームと野球をしていて、ハンクとカウボーイが喧嘩をするが、その時は父が間に入って事なきを得る。しかし、誰もいない所で、カウボーイとタリーがこっそりキスしているのを見つけたハンクは、カウボーイと激しく闘うが、刺し殺され川に放り込まれる。ルークは、その現場を偶然見ていたの。ルークは黙っているようカウボーイに脅され、その隙にカウボーイとタリーは駆け落ちしてしまう。一方、一家にとって年1回の大切な収入源である綿摘み作業は、10月に入ると連日の雨で、はかどらなくなる。駆け落ち前にタリーがルークのためにペンキを買い、それをトロットが少しだけ家の壁に塗っていたのを引き継ぎ、雨で暇なルークとメキシコ人達は家にペンキをどんどん塗っていく。追加のペンキは父が買い、ルークも綿摘みの駄賃を全額供出。こうして家は真っ白に生まれ変わった。しかし、綿の畑は連日の雨で川が溢れ、水浸しになってしまう。綿作農家の将来に見切りをつけた父母は、ルークを連れて北部で働くことを決心する。

ローガン・ラーマンは、10歳以下の子役から出発し、成功を収めた数少ない男優の筆頭格である。最初に7歳で出演したのがメル・ギブソン主演の歴史大作『パトリオット』、本作の翌年には『バタフライ・エフェクト』、13歳で『Hoot(ふくろう)』主演、14歳の『3時10分、決断のとき』ではラッセル・クロウと互角に演技して高く評価され、同年の『ナンバー23』『幸せのセラピー』を経て、17歳で『パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々』の主役に抜擢される。このサイトの対象年齢外だが18歳で『三銃士』のダルタニャン役、19歳で秀作『ウォールフラワー』の主役、20歳でパーシー・ジャクソンの続編、21歳でブラピの『フューリー』で戦車兵、23歳でスリラー『Indignation』(2016)の主役。2017年は『Sidney Hall』(ポストプロダクション)の主役、『The Wife』(撮影中)の主役、『Rothchild』(プリプロダクション)の主役と、ずらり主役が並んでいる。まさに若手ナンバーワンの貫禄だ。『ペインテッド・ハウス』のルーク役も、私は最初にNHKで放映された時に観てローガンのファンになったのだが、こうして業績を積み上げてから再度見直すと、他の子役とは明らかに違い、華がある。単に演技が上手いというのではなく、引き寄せられるような魅力、それが華であり、彼を成功に導いた原動力であろう。深い紺色の瞳も印象的だ。


あらすじ

映画は大人になったルークのナレーションから始まる。「1952年の9月初めのことだった。綿は腰の高さになり、父と じっちゃん(pappy)は、めったに聞かない言葉を囁いていた。『今年は豊作かもしれん』。135号線はアーカンソー・デルタの真っ平らな農園地帯をまっすぐに走っていた。道の両側は、見渡す限り延々と綿で白くなっていた」。形式も分からないくらい古いトラックに乗ったルークと祖父が映る(1枚目の写真)。「じっちゃん、私の祖父は、時速37マイルで運転していた」。キロに直すと時速60キロなので、この時代しては、オンボロ車の割に速い方だ。そして、車内がクローズアップされる(2枚目の写真)。「どの車にも、最も見合った速度があるというのが祖父の持論だった。そして、よく分からない理由から、古いトラックの速度を37マイルと決めていた」。針はきっちり37を指して動かない。「ぴったりだろ(On the nose)」。「収穫の時期、それは、私には素敵な季節だった、学校が2ヶ月休みになったからだ」。快適な滑り出しだ。
  
  

【解説】綿花を栽培している農園主にとって、最大の課題は綿摘み人の確保だった。ルークの祖父の農園は80エーカー(32ha)。2010-12年にかけてのアメリカの綿花栽培面積は980万エーカー、農園数は18,600なので平均値は527エーカー(213ha)と広大化しているので、収穫にはコットン・ストリッパーが使われる。1時間で500ポンド。手作業だと33時間かかるとされる。この数値を逆算すれば、手作業だと1人1日8時間働いて120ポンドという数字が得られる。一方、2007年の平均収穫量はエーカー当たり871ポンド、1977年と2007年で収穫効率は2倍に増えているので(1952-77はあまり変わらない)、1952年でも435ポンド/エーカー。80エーカーだと34800ポンドの収穫量となる。これを1日120ポンドで割り、更に、週5.5日労働とすると、家族4.5人(ルークは半人前)+日雇い13人(実際に雇う人数)の計17.5人がフルに働いて丸3週間かかる計算になる。全部が晴れている訳ではないので、10人以上は雇わないと作業が破綻することになる。因みに、作業料は100ポンド当たり1.6ドル。34800ポンドの13/17.5を臨時雇いが摘むと414ドルかかる計算になる。因みに、1952年の綿花の価格は平均34.59セント/ポンドなので、全部売れれば12000ドルの収入になる。さらに、1952→2016年の64年間のアメリカのインフレ率から換算すると1952年の1万2000ドルは、2016年の10万7000ドルに相当する。約1200万円だ。このことから、この農家が裕福とはほど遠いことが分かる(諸費用+借金で、1200万円が丸々入っても、その年の収支はトントンとの台詞がある)。少しくどかったが、ルークの家族の置かれた状況を理解するために是非とも必要と考え、特別に付け加えた。

映画に戻ろう。祖父は、「山岳地方からの出稼ぎを捉まえるには最適の場所」という持論に従い、自分の畑の道路際でルークとキャッチボールをしている。1週間待ってようやく1台のトラックが停まってくれた。大量の荷物と一緒に6人が乗っている。降りて来た親爺は、ユーレカ・スプリングスから来たと言っているので、州の最北端の高原地帯にあたる。アーカンソー・デルタの人々から見れば、確かに「山岳地方」だ。祖父は、綿100ポンド当たり1ドル60セントを申し出る〔1日120ポンド摘むとして日給1.92ドル。2016年換算で17ドル=1900円。めちゃめちゃ安い〕(1枚目の写真)。一緒にいたルークが、トラックに連結された台車に乗っている若い女性から声を掛けられる。「何て名前?」。「ルーク。そっちは?」。「タリー。あんた幾つ?」。「10。そっちは?」。「17よ」(2枚目の写真)。「どのくらい、そのトレーラーに乗ってるの?」。「1日半かな。こっちはトロット。ちょっと弱いの」。彼は体も弱いが、頭も弱い。だから、ルークが「よろしく、トロット」と声をかけても答えない。タリーは、ルークにとっては7つも年上だが、若い女性なので何となく気になる。次のシーンでは、祖父とルークが町に出かけて行き、メキシコ人の出稼ぎ労働者7人を確保して帰宅する。まとめ役はすごく低姿勢でいい人間だが、一人、不満分子のような男が混じっている。ルークは、祖父が彼等を納屋に案内するのを見ている(3枚目の写真)。
  
  
  

父につかまりながら畑から帰る時、父のシャツや野良着は汗で濡れていたが、腕は鋼(はがね)のようだった」。あまり見たことのない、自転車の乗り方だ(1枚目の写真)。「母は、井戸のポンプの脇で私たちを待っていた。彼女は女性ばかりの家で育ち、年寄りの こうるさい叔母たちに躾けられた。きっとみんな、農家の人より よく風呂に入っていたのだろう。だから、彼女の清潔熱は父にも伝染した。僕も土曜の午後には全身ごしごしと洗われた」。母は、父を洗った後、「綿でも摘んでたの? いつも汚いのね(Picking cotton or something? You're all dirty)」と言ってキスする〔NHKの訳では、「疲れたでしょう。今日も1日、ご苦労様」。これは、ひどい誤訳〕。仲の良い両親を嬉しそうに見るルーク(2枚目の写真)。夜、父と母の会話が聞こえてくる。母:「もし、このまま幸運が続いても、期待できるのは、収支とんとんなんでしょ?」。父:「それが目標だよ。とんとんでも悪いことじゃない。それで十分じゃないか」。「前の年から持ち越してる債務はどうなの?」。「去年の綿繰り機が2000ドル」。2016年換算で1.8万ドル(約200万円)。それなりの借金だ。これ以外にも細かな借金がある。「状況は知ってる。いつか変わる。抵当に入っていない土地を持てるさ」。「それで、何が違うの?」。農家の出身でない母は、綿作農家の行く末に、この段階でもう見切りをつけている。
  
  

朝から綿摘みをやっていて疲れてしまったルークが、綿の木の間に隠れて休んでいると、そこにタリーが膝を付いて〔他から見えないように〕やって来る。「こんちわ。調子は?」。「まぁまぁ」「カージナルスのジャケット買うんだ。あの赤だよ。ピカピカの。7.5ドルなんだ。10日もやれば、十分買えちゃう」(1枚目の写真)。「いいわね」。その時、姿が見えないので、「ルーク!」と父が大声で呼ぶ。慌てて立ち上がったルークは、「何してる?」と訊かれ、「ちょっと、おしっこ」。それを聞いたタリーがくすくす笑う。微笑ましい光景だ。午前中の作業が終ると、トロットがぐったりして横になっている。暑さにやられたのだ。昼食に帰った時、ルークは母から「午後は、ここでトロットと一緒にいて欲しいの。もし具合がもっと悪くなったら、家族の誰かを呼んできてあげて」と頼まれる。「僕のカージナルスのジャケット、どうなるの?」(2枚目の写真)。「綿は80エーカーもあるから、ちゃんと貯まるわよ」。全員を乗せたトラクターが畑へと向かう。ルークはトロットに寄って行くと、「大丈夫?」と訊く。「だと思う」。ルークは、「タリーは、野球好きかな?」と言いながらタリーの去った方を見やる。如何にもローガンらしい艶っぽい表情だ(3枚目の写真)。
  
  
  

ルークが、トロットの前であまり上手くない投球を披露していると、そこに典型的hillbillyのハンクが忽然と姿を現す。如何にも荒くれ者といった風体だ。怖くなるルーク。「300ポンド摘んだ。暑くてたまんねぇ」と言って、ルークに「水 持って来い」と命じる。ルークが置いてあった金属ポットから水を注ごうとすると、「冷たい奴だ、家にあるだろ。急げ、俺はいちんち中働いてたんだ、お前と違ってな」。これで、このハンクが如何に腐った人間かが分かる。自分の弟の面倒を見てもらっている農場主の息子に向かって、感謝するどころか。如何にも遊んでいるように非難し、しかも、自分が途中で抜け出してきたことは棚に上げている。ルークが素直に家に行き、棚からコップを出していると、ハンクが勝手に入って来る。子供しかいないので傍若無人に振舞っているのだ。ルークが冷蔵庫から冷水を取り出し、コップに注いで恐る恐るハンクに渡す(1枚目の写真)。因みに、日本ではちょうど1952年に初めて一般家庭向けの冷蔵庫が発売された(90リットル入りの小型)。それでも当時のサラリーマンの10ヶ月分に相当したとされる。同じ年、借金まみれの田舎の農家にもちゃんと冷蔵庫のあったアメリカとは、かなり差があったことになる。ハンクは水を飲むと、今度は、「何か、食い物はねぇか?」と訊く。「うーん、ないよ」。「『ありません』だろ。どうなんだ?」。ルークは、怖いので、「ありません」と素直に答える(2枚目の写真)。ハンクは、りんごを勝手に取って齧り始め、農家の悪口を言い始める。そして、スープを味見し、パンを口に入れ、「俺達はお前らよりいい家に住んでる」と自慢し始める。「ずっと上等で、でかい」「そえだけじゃねぇ。信じられんだろうが、俺達の家にはペンキが塗ってあるんだ。真っ白のな。ペンキなんか見たことあるか? 農民って奴は、なんでペンキぐらい塗らねぇんだ?」。さっきから心配して、窓の外でずっと聞いていたトロットが、「やめろよ、ハンク!」と叫ぶ。ルークはその隙に逃げ出した。ハンクが口にしたこの蔑みの言葉は、後にルークに家にペンキを塗るきっかけとなるので、とても重要だ。これが映画の題名にもなっている。夜になって、トロットから何があったか聞いたタリーは、ルークを呼び出す。木にもたれかかたルークに向かって兄のした行為を詫びるタリー(3枚目の写真)。ルークもまんざらではない。その後、一家の語らいの場で、ルークは母に「ウチの家には、ペンキ塗らないの?」と訊いてみるが、祖父からは「ばかげとる」、祖母からは「お金がかかるでしょ」と一蹴されてしまう。
  
  
  

土曜は、午前中で綿摘みは終わり。日曜は安息日なので店もお休み。そこで、土曜の午後は町が多くの人でごった返している。ルークも、母と祖母と一緒に町に来て、別れる前に母からお小遣もらう。「昼の部〔映画のこと〕に5セント、ダブル・コーラ〔商品名〕に5セント、ポプコーンに3セント」(1枚目の写真)。映画とコーラ1本が同じ値段というのは面白い。「それって、綿摘み代の前払いよ。後でちゃんと返しなさい」と祖母が釘を刺す。なかなか厳しい。映画館の前には切符を買う順番待ちの長い列ができている。ようやくルークの番になった時、「ケンカだぞ!」という声がかかり、ルークを筆頭に、多くの子供達が列を離れて喧嘩を見に行く。そこでは、地元のワルとして有名な兄弟が、hillbillyの若者1人を痛めつけていた。それに憤慨したハンクが、「そんなのフェアじゃねぇだろ! 男らしく闘え!」と言って割り込む。さっそく逃げ出す若者。ハンクは、名うてのワルを相手に1対2でも猛反撃し、2人を地面に伸ばしてしまう(2枚目の写真)。これで勝負あったハズなのだが、ハンクは太い角材を取り上げる。近くにいた大人が、「もう、見ちゃいかん」と言ってルーク達を行かせる。そして、ハンクは角材で兄弟の1人に殴りかかる(3枚目の写真)。
  
  
  

私は雨の音で目が覚めた。トタン屋根を、どしゃ降りの雨が叩く音だ」。幸い日曜なので、綿摘みがお休みの日だ。昨日の喧嘩のことを、祖父に話そうかどうしようか迷っていたルークは、祖母に呼ばれてベランダに戻る。短いシークエンスだが、ここで祖父母の次男、ルークの叔父にあたるリッキーの話が出される。彼は今、懲役兵として朝鮮戦争に従軍していた。祖母にはそれが心配でたまらない。祖母が、息子が帰ってくる夢を見たと話すと、ルークが「リッキー叔父さん帰ってくる?」と訊く(1枚目の写真)。「そうよ。今すぐじゃなくても、戦争はすぐに終わるから。そしたら、会えるわよ」。戦争は1952年1月から休戦状態となっているので、これ以後、叔父が危険な目に遭う可能性はあまりなかった。ルークは「おばあちゃん、僕、毎晩、リッキー叔父さんのこと お祈りしてるんだ」と言って、祖母を喜ばせる(2枚目の写真)。
  
  

日曜礼拝に行った一家を待ち受けていたのは、保安官だった。昨日の喧嘩で、ならず者兄弟の1人が死んだので、出稼ぎの男を即刻聴取したいと言われ、一家は、礼拝が終ると早々に帰宅する。保安官はhillbillyの一家のテントまで行くと、「昨日、町でひどい喧嘩があった。地元の2人の若者と山岳地方の男1人だ。今朝、若者の1人が死んだ。頭蓋骨骨折だ」と説明する(1枚目の写真)。そして、ハンクに直接尋問を始める。ポイントは、死に至らしめた角材を誰が使ったかだ。ここから先が、脚本の唯一の弱点。喧嘩の現場には、地元の兄弟とハンクしかおらず、死んだのは兄弟の1人。もう1人の兄弟が殴ったとは思えないので、被疑者筆頭はハンク以外にないはず。それなのに、すぐに逮捕連行せず、こともあろうに、角材の使用を否定するハンクに「目撃者が必要だ」と言い、その結果、ハンクがルークを指差し、喧嘩を見ていたことがバレてしまう。祖父に、「ここに来い。喧嘩を見てたのか?」と詰問されれば(2枚目の写真)、「はい」と答えるしかない。何があったを訊かれ、途中まで克明に話す。そこまは、ハンクが話した通りだった。「これで決まりだな(That settles it)」と祖父。早く打ち止めにしたいのだ。保安官が「ツーバイフォー〔2×4インチの角材〕を使ったのは誰だ?」とルークを問い詰めると、ハンクが「言えよ。あいつらの1人が角材を拾ったんだよな? 違うか?」と脅すように言う。怯えるルーク。祖父が「口に気をつけろ」と注意する。本来、保安官が注意すべきことだ。父は、保安官に「あんたは、息子を死ぬほど怖がらせてる。喧嘩を見てた連中なら幾らでもいるだろう」と牽制する。優柔不断で不適切尋問の保安官は、この言葉で帰っていく。ツリー・ハウス〔と言っても、台しかないが〕の上で気を静めているルークの元に、父がやって来て、「なぜ喧嘩のこと黙ってた?」と訊く。「怖かったんだ」(3枚目の写真)。「怖い? 怖いって何が?」。「ケンカを見てたなんて、バレるのが」。角材のことを訊かれると、一気にいろいろなことが起きたので、そこまで見ていなかったと答える。
  
  
  

それから1週間が過ぎ、一家は、死人が出たことに配慮して町へ行くのを取りやめる。土曜に週1回洗われることになっているルークは、「どうして こんなことするのさ。町へは行かないのに」と不満たっぷり。いつもは母にゴシゴシされるので、「自分でやる」と言って石鹸と小さなタオルをもらう。そして、石鹸はつけずに、タオルでちょこちょこっと触っていると(1枚目の写真)、いきなり母がバケツ一杯の井戸水を頭からかける(2枚目の写真)。後は、洗うのもそっちのけで、2人で水の掛け合い。楽しそうだ。
  
  

際限のない労働と暑さが5日間続き、町へも行けそうにないので〔メキシコ人が一番の犠牲者〕、私たちは一緒に野球をすることにした。カウボーイはメキシコ・チームのピッチャーで、驚くほど上手かった。僕は簡単に三振をとられ、タリーの前なので 屈辱を味わった」〔カウボーイはメキシコ人の出稼ぎの一人〕(1枚目の写真)。タリーの打順になると、彼女に好意を抱いているカウボーイはわざとアンダースローで弓なりのボールを投げ、タリーに打たせてやる。「タリーがヒットを打った時、屈辱は耐え難いものとなった」。バッターがハンクになると、カウボーイは全力投球で三振をとった。怒ったハンクはバットを地面に叩きつけカウボーイを睨みつける。父は、「バットを投げるな。スポーツをやる気がないなら、止めろ」と叱咤する。この回は、それで収まったが、次にハンクがピッチャーになった時、この無知で粗野で暴力の塊のような男は、カウボーイの横腹めがけて全力でボールをぶつけた。怒ったカウボーイはバットをハンクの足に投げつけ、襲いかかるハンクに飛び出しナイフを突きつけ、顔をのけぞらせる(2枚目の写真)。ハンクは、自分が卑怯なことをしたくせに、「男らしく闘え」とわめく。父と、相手の親爺に2人は引き離されるが、その時、ハンクは「そいつを殺してやる」と何度も口にする。その言葉にルークは慄く(3枚目の写真)。
  
  
  

ルークが鶏小屋でエサをやっていると、タリーが寄ってくる。「ねえ、お願いがあるの。ママが、あんたのおばあちゃんから聞いたんだけど、この近くに水浴びできる小川があるって。どこか知ってる?」。「サイラス・クリーク。あの道を半マイルくらいだよ」。「蛇はいる?」。「水ヘビはいるだろうけど、沼マムシ〔猛毒〕はいないよ」。「一緒に 来てくれない?」。「どうして?」(1枚目の写真)。「そうね… 誰にも見られたくないの」(2枚目の写真)。笑顔にほだされて行くことに。行く途中で、タリーはハンクのことを再度謝る。タリーも、ハンクが角材をつかんだかどうか知りたがるが、ルークの答えは、速すぎて分からないだった。そして、「ハンクは、前に誰か殺したことあるの?」と尋ねる。「知ってる限りじゃ、ないわ。一度北部行った時、面倒を起こしたって話だけど、何をやったかは知らないの」。
  
  

現場に到着。水の深さがルークの肩ぐらいまでだと知ると、「来た道に戻って、誰も来ないか見張ってて」と言い、さらに「覗いちゃダメよ」と念を入れる。「しないって」。向こうに行くフリをして、ルークは、茂みの間から水辺に近付く。そこでは、タリーが背中を向けて水に浸かっていた(1枚目の写真)。「ルーク」と呼ぶ。「何?」。「何も問題ない?」。「ないよ」。後姿を見ただけで満足するルーク(2枚目の写真)。タリーは、声の近さで、ルークが覗いていることに気付く。タリーが服を着て道に戻ると、ルークが所在なげに、小川に石を投げている。ありがとうと言った後で、「見てたんでしょ、ルーク?」と訊くタリー。「うん」。「いいのよ。怒ってない」。「そうなの?」。「自然なことでしょ。男の子が女の子を見るって」。話の分かるお姉さんなので、ルークは嬉しそうだ(3枚目の写真)。
  
  
  

一番ユーモラスなシーン。祖母の妹の子ジミー・デイルが、突然、1ヶ月前に結婚したばかりの北部出の女性を連れて「親戚へのお披露目」にやって来る。農家では見たこともないようなピカピカの新車に乗っている。父〔ジミーには、いとこに当たる〕に、「大した車だな」と言われて、結婚祝いに買ったと話す。その時、“Me and Stacy got married” に対し、奥さんが、“Stacy and I got married” でしょと訂正する場面がある。この時のNHKの訳は、「俺とステイシー」を「ステイシーと俺で」に言い換え、如何にも彼女が女性上位で生意気かのような印象を与える。この部分の英語の “Me and ” は口語でよく使う表現。一方、文法的には “ and I” が正しい〔Meを使うと、自動的にの位置が逆転する〕。彼女はそれを指摘しただけで、自分の名前を先にすることに拘った訳ではない。正しい文法で話せと夫に言っただけで、逆に、その点が生意気なのだ。だから、その雰囲気を込めて訳すとすれば、「俺っちとステイシーは1ヶ月前に結婚したんだ」。「俺とステイシーでしょ、俺っちじゃなくて」という感じになる。ルークは、「幾らしたの?」と訊く(1枚目の写真)。2700ドル。現在換算で24000ドル〔270万円〕。妥当な金額だ。その後で、祖母が全員にアイス・ティーを持って来る。ステイシーは、それをとんでもないといったように断り、熱いティーを所望する。それにカチンときた祖父は、「ここらじゃ、熱いティーなんか飲まん」と言うと、「ミシガンじゃ、氷なんか入れて飲みませんわ」と反論。祖父は「ここはミシガンじゃない」と憮然とする。険悪なムードを悟った母が、ステイシーを自分の菜園へと誘う。彼女が去った後、父は、北部に行ったルーサーのことを聞いてみる。「彼ならよくやってるよ。工場の仕事を世話してやった。時給3ドルで週40時間働いてる。そんな大金見たことないってさ。ここでやってるみたいに綿を摘んでた時は、年1000ドルくらいなんだろ? 今じゃ、年6000ドル、プラス、ボーナスに退職金だ」。現在換算で54000ドル〔600万円〕。ルークが、信じられないとばかり、「6000ドル?」と訊く。「そうだとも」。ルークは、母の方に行けと追い払われる。菜園では、ステイシーが虫を追い払うのに大わらわ。そこにやって来たルークが緑と黄色のきれいな蛇を見つけて、プレゼント代りにステイシーに見せる。彼女は、悲鳴をあげて卒倒する(2枚目の写真)。「ミシガンには蛇がいないの?」と不思議がるルークに、にやっと笑いかける母。ステイシーは、ベランダまで運ばれて行き、気付け薬で意識を取り戻す。ルークと2人だけになった彼女は、ルークが乗用車に乗ったことがなく、テレビはカタログで見ただけ、電話を使ったこともないという話を聞き、「何て時代遅れなの」とあきれる。そして、夫を呼び捨てで呼びつけ、遅くなるからと、出かけるよう促す。そして、その前にトイレに行きたいと告げる。案内されて行った先は、ボットン式の屋外トイレ。ブツブツ言いながら入って行ったのを見たルークは悪戯を思いつく。トイレのドアをノックし、近くに大きな黒蛇がいるので、じっとしていないと危ないと脅したのだ(3枚目の写真)。夫を呼びに行くようルークに頼み、中で泣くステイシー。駆けつけた夫に連れられ、早々に立ち去ったのを見て、祖父が「よくやったな、ルーク。ザマみろだ(Served her right)」と褒める。
  
  
  

ラッチャー家は小作農で、私の家から1マイルと離れていない所に住んでいた。その荒れ放題の掘っ建て小屋には大勢の子供達がいて、電気もなかった」。そこに、親切心で野菜を届けに行った母は、①娘に赤ちゃんが生まれそう、②父親が誰か言わない、③医者を呼ぶとそのことが知れ渡る、と聞かされ、助産の経験のある祖母と一緒にすぐ戻ると言って帰宅する。慌しくトラックで出かけた祖母と母の様子に興味を惹かれたルークは、タリーと一緒に調べることにする。そこで、井戸で水を汲んでいるタリーに後ろから忍び寄って、いきなり両手で目隠しする(1枚目の写真)。そんなことする人間は1人しかいないので、「ルークでしょ? どうかしたの?」。「誰にも言わないって約束する?」。「いいわ」。ルークはタリーの手を引いてラッチャー家へと向かう。忍び寄って窓からこっそり覗くと(2枚目の写真)、中では祖母が赤ちゃんを取り出している。実は、この赤ちゃん、叔父のリッキーが出兵前に植えつけたものだった。しばらくして、ルークが家の裏手に行くと、壁の下の方に白いペンキが塗ってある。触ってみると、まだ乾いていない。「誰かが、ペンキ塗ったんだ」と母に言うと、「きっと、トロットね。何もせず、1日中家にいるのは彼だけだから。だけど、どうしてこんなことしたのかしら」(3枚目の写真)。「ペンキはどうしたのかな?」。「謎ね」。トロットは働いていないのでペンキと刷毛を買ったのはタリーだ。兄が話したことへの謝罪の意味と、ルークへの好意が合わさったものであろう。
  
  
  

ルーク達が綿を摘んでいると、急に風が強くなり、頭を上げると前方に竜巻が見えた(1枚目の写真)。父は、全員を大至急帰宅させる(2枚目の写真)。「竜巻は アーカンソーのこの辺りはごく当たり前で、それまでに いっぱい話は聞いていた。私達が、茫然と竜巻を見ていると、それは、現れた時と同じように、突然姿を消した」(3枚目の写真)。
  
  
  

その4日後、ルークが綿摘みをしていると、木の中からカウボーイの囁き声が聞こえる。「Me gustas mucho(君が大好きだ)」。そして、英語で同じことをくり返す。カウボーイがタリーに、スペイン語で「君はきれいだ」「付き合ってくれないか」と続ける。もちろんタリーには分からないの、毎回意味を尋ねての会話だ。ルークは、地面を這ってそっと近付き、仲の良さそうな様子を伺っている(1枚目の写真)。ルークがラッチャー家に行くため母と2人だけでトラックに乗った時、「話しておかなくちゃいけないことがあるんだ」と言い出す(2枚目の写真)。そして、「タリーとカウボーイ、お互いに好きみたい」と打ち明ける。「そうなの? どうやって分かったの?」。「綿の畑で聞いたんだ」。「2人は何してたの?」。「さあ、でも一緒だった。キスしてたと思う?」。「多分ね… お父さんにも話しておくわ」。
  
  

トラックはラッチャー家に到着する。お産後、初めての慰問だ。母と2人で野菜などの差し入れを運ぶ(1枚目の写真)。あらすじでは、初めてルークの家のトラックの全体像が映っている。すごいオンボロ車だ。綿作農家の経済状況が端的に分かる。母が、赤ちゃんを見に行っている間1人になったルークは、ラッチャー家の子供達に取り囲まれる。一番年上の兄が「ボコボコにしてやる(whoop your behind)」と凄む。「何で?」。「リビーをあんなにしたのは、リッキーの奴だ」〔リビーは妊娠した姉〕。「僕のせいじゃない」。しかし、いきなり殴られる。応戦するが、1対3では敵わない。木の根元に押し付けられて集中的に殴られる。家から出てきてそれに気付いたラッチャーの母親は、恩人の息子に暴力を振るっている子供達を必死に止める(2枚目の写真)。ルークは、母に抱かれてトラックに向かう。「何があったの?」と訊かれ、「リビーは、リッキーのせいだって」。「誰にも分からないわ」。綿摘みグループが帰ってくるのを、ルークは鼻に栓を詰めて待っている(3枚目の写真)。みんなが戻ると、母は、「信じられないような話だけど、3人がかりでルークに飛びかかったのよ。食べ物を持っていってあげたのに、こんなひどいことするなんて」と祖父に訴える。祖父:「3人だと? 逃げなかったんだな?」。母:「逃げなかったわ。同じくらい蹴ったり引っかいたりしてた」。祖父はルークに直接、「おい、パンチは食らわしたのか?」と訊く。ルークは、調子に乗って、「みんな泣いてたよ」と事実とは違った返事をする。ハンクには、「3人が相手か? よくやったな。大したもんだ」と言われ、父には肩車され、全員から喝采を浴びる(4枚目の写真)。
  
  
  
  

祖父は、ハンクを問題視している。最近、収穫量が半分に落ちたからだ。その上、夜にはメキシコ人の寝ている納屋に石をぶつけ続けている。そこで、役立たずは保安官に捕まえてもらおうと言い出すが、祖母は、ハンクの父親に、保安官が捕まえにくるから息子をこっそり逃がせと勧めるよう提案する。こうすれば、ハンクの父からは感謝され、ハンクというトラブルメーカーもいなくなる。名案だと感心する祖父。その後、ルークは祖父と2人で町に出る。祖父が向かったのは雑貨店。店の中は人でいっぱいだ。ルークが入って行くと、店主が寄ってきて、「見せたいものがある」と最前列に連れて行ってくれる。そこには町で初めてのTVが置いてあった(1枚目の写真)。放送しているのは、ワールド・シリーズ。ルークにとって、カタログ以外で、初めて見るTVだ(2枚目の写真)。因みに、日本でTV放送が開始されたのは翌1953年のことだ。試合が終わり外に出ると、農民達が、「昨夜、北の郡で大雨が降った。6インチ〔150ミリ〕だ」「10月に洪水なんて、この20年なかった」と心配そうに話している。映画は9月初めに始まり、もう10月に入っていた。ルークが店の前に座っていると、そこにペンキ缶を抱えたタリーがトロットとやって来る(3枚目の写真)。「そのペンキ、何なの?」とルーク。タリーは、トロットと顔を見合わせて笑い、「何でもない」と答える。実は、ルークの家の壁を塗るための追加のペンキだった。
  
  
  

綿畑では、今朝の作戦に沿って、父がハンクの親爺に話をもちかける。ハンクは反発するが、母親に「いいから、すぐ家に戻るんだよ。ほとぼりが冷めるまで」と言われ、従う。母親の力は大きい。同じ日の夕方、ルークが近くの木橋を渡りかけた時、茂みの陰でキスを交わしているタリーとカウボーイに気付く。ルークは岸に戻り、斜面を降りて近付いて見ている(1・2枚目の写真)。すると、そこに1人で歩いて家に帰るハンクが通りかかり、橋の上から2人を見てしまう(3枚目の写真)。タリーはハンクの妹。しかも、ハンクはカウボーイと一触即発の間柄だ。「そこで、何やってる?!」と怒鳴るハンク。「関係ないでしょ、ハンク」といなすタリーに、危険を察知したカウボーイは戻れと命じる。ハンクにも同じことを言われ、タリーはその場を離れる。残ったのは2人と 隠れたままのルークだ。
  
  
  

2人は、橋の上で激しい闘いを始める。単なる喧嘩ではない。どちらかが致命傷を負うまでは終らないような全力でのぶつかり合いだ。最初は、角材代わりの太い枝を振り回すハンクが優勢だったが、劣勢に立たされたカウボーイが飛び出しナイフでハンクの心臓を刺す(1枚目の写真)。ハンクは死に、カウボーイは、落ちていた太い枝を投げ捨てる。その時、ボシャという音が聞こえる。後で述べるが、この効果音はおかしい。その後で、カウボーイは重い死体を橋の端から川に落とす(2枚目の写真)。ルークは、そのすべてを見ている。カウボーイは落ちていた帽子(写真の右下)を拾うと、立ち去ろうとするが、ルークの気配に気付き、顔にナイフを突きつけて脅す(3枚目の写真)。「このことを一言でも誰かにしゃべったら、お前の母さんを殺してやる。俺が行っちまってから1年してからしゃべっても、ここに戻って来てお前の母さんを殺す」。
  
  
  

家に戻ったルークは、人の死を見て元気がない。雨もひどくなってきた。父がトラックがなくなっていることに気付く。山岳地方の一家が、タリーがいないと騒ぎ出し、メキシコ人のまとめ役はカウボーイがいないという告げに来る。カウボーイがタリーをさらったかもしれないということで、山岳地方のトラックで警察に向かう。それを見送るルークの複雑な顔(1枚目の写真)。数日後。降りしきる雨の中、ルークと祖父が、橋の上から川の様子を見ている。「雨が降りやまないので、じっちゃんは川の増水を心配した。水が溢れ出すのでないかと。しかし、私の心の片隅では、水位が上がり、すべてを洗い流して欲しいと祈っていた」。祖父は、川まで降りて行くと、ハンクの使っていた太い枝を岸から拾い上げる。何かバレるかもと、ルークが心配そうにそれを見ている(2枚目の写真)。しかし、祖父は水位の上昇を測るため、枝を川面に刺し込んだだけだった(3枚目の写真の矢印)。ここで問題となるのが、数日前の闘いの後にカウボーイが枝を投げた時の「ボシャ」。地面に落ちた音ではない、川か岸辺に落ちた音だ。あれから雨が降り続き、川の水は増水しているので、木の枝が残っているハズはないのだが…
  
  
  

翌日、パトカーがトラックを発見して持って来てくれた。トラックは、いつも土曜に行く町のバス・ステーションに、ガソリンを満タンにして置いてあった。そして、タリーが両親に残した手紙が残っていた。そこには2人は結婚し、北部で職を見つけて暮らすと書いてあった。合意の上の出奔で、車も借りただけなので、警察が関与する問題ではないし、タリーの両親もあきらめるしかない。数日後、祖父と父とルークの3人が、川まで様子を見に来る。「時たま晴れる日もあったが、聞こえてくるのは暗く恐ろしい話だった。北にあるクレイ郡で大雨が降り、クリークや小川が氾濫して、この川に注ぎ込んだのだ。水位は上がっていた」(1枚目の写真)。矢印の木の枝は、間もなく水没してしまう。雨が続いて仕事にならないので、山岳地方の一家が遂に引き揚げることになった。トロットがルークに刷毛を渡す(2枚目の写真)。そして、「こっちだ」と言うと、載せてあったペンキ缶を2個ルークの足元に置き、「君のだ。タリーが買った」と告げる。「ありがと」と言うルークを、ぎこちなく抱きしめるトロット。いいシーンだ。2人の意思を継いでペンキを塗ろうと決断したルーク。父母に台を作ってもらい、その上に乗って塗り始める(3枚目の写真)。
  
  
  

雨がしばらく止んで綿花が乾くと、一家とメキシコ人達は必死で摘み取りを行った。しかし、地面がぬかるんでいるため、重い袋を引きずっていたルークは、転んで泥まみれになってしまう(1枚目の写真)。祖父と父が、「雨で綿の値段が上がってる」「2・3日降らないといいんだが」と話していると(2枚目の写真)、急に空の具合がおかしくなり、雷の音とともにどしゃ降りの雨が。メキシコ人が、摘んだ綿の上に大急ぎで防水布を被せる(3枚目の写真)。これでまた、数日間は作業ができなくなる。
  
  
  

ルークの父母は、町で大量にペンキを買ってくる。そして、綿摘みのできないルークが一人でペンキを塗り始める。「雨のお陰で、私たちは長い間 家に閉じ込められた。太陽が雲間から顔を出す日もあったが、綿は湿り過ぎ、地面はぬかるみ過ぎていた。メキシコ人達は、何もすることがないので、残った壁のペンキ塗りを喜んで手伝ってくれた。それも、猛烈な勢いで」(1~5枚目の写真)。だんだん塗る場所が高くなり、4枚目ではルークが肩車され、それでも届かなくなったので、5枚目では箱に座って傍観している。
  
  
  
  
  

祖父と2人だけでトラクターに乗っている時、ルークがおずおずと話し始める。「じっちゃん、もし秘密を打ち明けたら、誰にも言わないって、約束してくれる?」(1枚目の写真)。「言ってみろ」。「ハンクは死んでる。カウボーイが殺した。ナイフで刺したんだ。僕、全部 見てた。ハンクが、カウボーイとタリーの一緒のとこを見ちゃったんだ」。「タリーも 見てたのか?」。「見てないよ。カウボーイが、帰らせた。2人は、橋の上で闘って、ハンクは、川の真ん中に落ちて、そのまま沈んじゃった」。「その時、話すべきだったな」。「できなかったんだ」。「カウボーイに見られたのか?」。「僕たち、どうすればいいの? 誰かに話した方がいい?」。そう訊かれ、祖父は、「いいや、そうは思わん。何を話そうが、奴は戻ってこないし、みんなに話せば、面倒に巻き込まれるだけだ」(2枚目の写真)と言い、「心配するな、じっちゃんに任せておけ」と安心させる。しかし、その後、「堤防を越えた。水が来るぞ」と心配そうに話す。生活がかかっているので、祖父にとっては綿の方が重要事なのだ。
  
  

家の裏側はペンキを塗り終わったので、今度は、表側を塗るためのペンキを買いに来た父。4缶買うが10ドルしかなくて、税金の36セントはツケにする。父が、「トラックに運んでもらうのを手伝うんだ。数分で戻る」と言って去ると、ルークは「2ガロンで幾ら?」と訊く〔1缶が1ガロン〕。「1ガロン 2ドル50だから、5ドルだよ」と言われ、自分の稼いだお金から5ドルを渡す(1枚目の写真)。「綿を摘んだお金だろ?」。「うん」。「パパは、君がペンキを買うなんて知ってるのかい?」。「まだだよ」。「こんなにたくさん、何を塗るんだね?」。「僕らの家」。「どうして、また?」。「一度もペンキ塗ったことないから」。「あと、税金が18セント。あるかな?」。「パパが借りてる税金は?」。「36セント」。「ここから取ってよ」。今では、ペンキを塗ることがルークにとって生き甲斐になっている。何もすることがないメキシコ人のお陰で、表側も一気に真っ白になっていった(2枚目の写真)。それでも足りなくて、まだ一部ペンキの塗られていない部分が残っている。母がやってきて、「素晴らしいわ」と褒めた後で、「あなたのお金、ペンキに使っちゃったのね」と言う。「僕のお金だもん。好きなように使っていいって言ったじゃない」(3枚目の写真)。「カージナルスのジャケットはどうするの?」。「きっと、サンタクロースが持ってきてくれるさ」。思わず笑う母。
  
  
  

その時、父が来て、「戻り水が、道路を越えて裏の40エーカーに流れ込んでる」と言う。深刻な事態だ。祖父が、家族とメキシコ人全員を畑に連れて行く。水の深さは2インチ〔5センチ〕だが、結構な勢いで流れていて、畑全体が水没しそうだ。ルークも深刻な顔をしている(1枚目の写真)。祖父は、もうこれ以上待っていても綿摘みは無理と判断し(2枚目の写真)、父に、町に行ってメキシコ人の働き先がないか探すように言う。その日の夜も雷雨。ルークの寝室で母が「まだ、内緒にしてることがあるの。秘密にしておける?」と語りかける(3枚目の写真)。「もちろん」。「私達、北部に行こうと考えてるの」。「僕は?」。「一緒に行くのよ、もちろん」。かねてからあった農家としての収益の問題が、今年の綿作が初期の予想の豊作から一転して壊滅的になったことから、このような形で決着したのだ。この時点では、まだ祖父母には内緒だった。
  
  
  

水位はさらに上がり、全体が水びたしとなった畑を前に茫然と立ち尽くす一家(1枚目の写真)。雨はそれでも降り続き、小作のラッチャー一家の家が浸水し、助けを求めてやって来る。そして、メキシコ人が出て行った後の納屋に入ることになる。納屋に行ってみたルークは、泣いている赤ん坊のそばに行くと、リビーに「何て名前?」と訊いてみる。「まだ ないの」。そして、「リッキーは いつ帰る?」と逆に訊かれる。「知らないよ」(2枚目の写真)。次のシーンで、ルークは母と一緒に菜園にいる。水は来ていないが、下はドロドロだ。ルークは「僕たちの土地、どうしてすぐ水に浸かったの?」と尋ねる。「土地が低いし川に近い… あまりいい土地じゃないわ。それも、ここを離れる理由の1つなの」。「いつまで北部にいるの?」の問いかけには、「少しの間よ。お金が貯まるまでいるだけ」。この答えは怪しい。一旦北部に行けば、経済格差があまりに大きいので、帰って来ないかもしれない。それにその後、帰ってきても「農家はやらない」と言っているし、隣のテネシー州のメンフィスで仕事を探すという話も、北部のようにはいかないであろう。ルークは、「自分達の家を買うのよ。TV付きのね」と言われてニッコリするが(3枚目の写真)、メンフィスではなく北部で家を買う可能性の方が高そうだ。
  
  
  

明くる日の夜の食事中、祖父が、「作物融資は、次の春まで繰り越しできる。他の借金も延ばせる」と言い、それに加えて、「綿の3分の1がまだ水の中にある。天気が変われば、少しは救えるかもしれん」と口にする。父は、口火を切る良い機会とばかりに、「綿繰り機に持ってかれるさ」と釘を刺した後、いとこのジミーが仕事を紹介してくれると話す。母も「でも、ジミーもそんなに待てないの。希望者が多いから急がないと」と援軍を出す。すかさず父は、「週、200ドル程度稼げるらしい」と付け加える。先回、ジミーが例に上げたルーサーが週120ドル、年6000ドルだったから、年1万ドル、2016年換算で9万ドル〔1000万円〕は破格の高級取りだ。最初に解説したこの農家の予想年収10万7000ドルに比べれば少ないが、農家の場合には必要経費が同じくらいあるが、工場労働者なら税金額は不明だが かなりの全額が懐に入るので状況は全く異なる。そして、「明後日には出発しないと」という爆弾発言。これには、祖父母とも言葉を失う。暗く寂しい夕食となった。翌日、水浸しの畑で、ルークと祖父がトラクターに乗っている。「明日、出るんだな?」。「そうだよ」。「きっと すぐ帰ってくるさ」。その後、話はハンクとカウボーイの件に。祖父は、黙っているしかないという結論に達したと言い、「2人の秘密だ。いいな?」と手を差し出す。ルークは、その手を取り「いいよ」と約束する(1枚目の写真)。最後に、「じっちゃんのこと、忘れるんじゃないぞ」と言われ、思わず抱き付く(2枚目の写真)。
  
  

出発の当日の朝。祖母は、ルークのそばに張り付き、如何にも名残り惜しげだ。「ヤンキーみたいなしゃべり方で、帰ってきちゃダメよ」と言って頭を撫ぜる(1枚目の写真)。しかし、10歳で転校して南部訛りでは絶対イジメられるので、きっと北部訛りになるだろう。家を離れる直前、トラックの前で祖父が、ペンキを塗った家を見ながらルークに「よくやったな。本当に頑張った」と褒める(2枚目の写真)。「完成させたかったんだけど」。写真でも、少し塗り残しのあることが分かる。「あと、1ガロンか?」。「そうだね」。「この冬に仕上げとこう。帰って来る時には、終ってるぞ」。「そう願ってる(I'd like that)」(3枚目の写真)。「決まりだ、握手しよう(Let's shake on it)」。感極まって、また抱き付くルーク。実に素朴でいい少年だ。祖父がトラックを運転し、3人を町まで送っていく。「私達が去って行く時、祖母は玄関先に立って、顔をぬぐっていた。父は、私に泣くなと言ったが、泣かずにはいられなかった。胸が痛んだ。しかし、それと同時に、新たな冒険が始まったんだと、自覚していた」。
  
  
  

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